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午前11時。風のない水曜日。
ふいに鳴る着信音の発信元は、いつも魚を分けてくれる漁師のおじいちゃん。
「今、どこさいる?今日はすごいの獲れたから!」
電話越しに伝わる興奮気味の声に胸を踊らせて、急ぎ足で漁港に向かう。
ぶーん。
「すごいの」を連れて帰ってきたその人は、操縦席から降りると
こちらをみてニヤっと笑った。
おもむろに取り出した網から、溢れんばかりの足をもった巨大なタコ。
吸い付かれないように注意を払いながら
大人ふたり、手際よくさばいていく。
こんなに大きいのは初めてだ。
呆気にとられている私を見て、今度は今まで見たことないくらい顔をくちゃくちゃにして
がはははと笑った。
73歳、なんて眩しい笑顔なんだ。
この日獲れた35kgの水タコは、およそ20年のカゴ漁経験の中でも2番目の大きさだったという。
……たとえば、こんな日常が過ぎ行く町。
私にとってはまるで映画のワンシーンのような20分間の出来事も、
ちゃんとこの町の「日常」であると教えてくれる。
そんなありがたみを噛み締めて、今日も頑張ろうと思うのでした。