仲町虎舞、活動中!

2025.12.24

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虎の頭(カシラ)を被る。
頭の中、ちょうど口の辺りにつけられた木の棒が持ち手になっているところを持つ。棒の隙間、虎の口の中、狭い視界で、向こう側が見える。
虎の頭の周りには、ぐるっと一周鈴がついている。木の棒の部分を両手で持って、腕を伸ばし、左右交互にパンチするように動かすと、鈴がシャラシャラと鳴った。

「跳虎(ハネトラ)っ、いきましょ〜〜〜!」
ッタカタン、ピーリリピーリリピーリリリッ、ピーリリピーリリピーリリリッ…
いつもの掛け声と共に、囃子が始まる。虎の頭を振りながら、恐る恐る前に踏み出す。

虎の後ろをやっている時は、虎の体に空気を送りながら前足に合わせて動くのだが、頭だとそれも見えない。前後不覚。自分がどこにいるのか分からないまま、必死に腕を前に振りながら、囃子に合わせて覚えたステップを踏む。ステップに集中すると、腕が止まってしまう。腕を振るのに集中すると、ステップがわからなくなる。疲れて体を起こしてしまうと、虎っぽさがなくなりカッコ悪い。低い姿勢を保ちながら、必死に全身を使って跳ねる。どうなってるかは全くわからないが、今の自分はきっと、ヘコヘコと足取りの悪い、情けない虎だ。
息が上がってくる。キツくて歯を食いしばる。でも、口角が上がり、前を睨みながら笑っている自分に気づく。

囃子を聞くと、自分の中の忘れていた何かが引き摺り出される感覚がある。好きとか、嫌いとか、楽しいとか、そういう言葉では表せない、それ以前の感覚。「じゃわめぐ」。私の全身の血がさわぐ。スポーツや音楽、そのほかの趣味では生まれ得ない、魂の高鳴り。胃がふわふわして、今すぐ叫びたくなる気持ち──

 

高田暮舎の木津谷です。今回は、私が移住当初から関わらせてもらっている郷土芸能、「仲町虎舞」の話を。

仲町虎舞とは、陸前高田市の気仙町の郷土芸能の一つです。「釜石虎舞」の流れをくんでいて、青年部を中心に小正月の悪魔祓いを中心に地域の行事として活動していました。しかし、2011年の震災・津波により道具等がすべてが流失していまい、その中で唯一、ガレキの中から「小虎」一頭が発見されたことにより、再始動のきっかけとなりました。

気仙町は、陸前高田の中でも特に津波被害の大きかった場所でもあり、震災後は集落が解散。震災前のように、集落のみんなで集まって活動することは難しい。現在の仲町虎舞の活動の中心となっているのは、笛や太鼓、トラの舞い方を教えてくれる先輩方と、「虎舞をやってみたい!」と名乗り出た移住者たちです。
かくいう私もその移住者のうちの1人。陸前高田に来た当初、生粋の祭り好きの私をメンバーの1人が仲町虎舞の見学に連れて行ってくださったのが参加のきっかけとなりました。初めて見学に来た当時はまだ学生でしたが、あまりのかっこよさに心を打たれてしまい、移住後に絶対参加すると決めて、時間を見つけて練習に行くように。初めは笛として参加していましたが、練習を見ているうちに、どうしても虎の中に入ってみたくなり、現在は舞手として参加しています。

(普段は後ろ足をしていることが多いですが、最近は時々頭に入ることも増えてきました。)

今でも覚えているのが、先輩が虎の中に入った時の、人が虎に「変身」する、というか「憑依」する瞬間のかっこよさ。虎のカシラを被って、笹に齧り付き、ひらり、ひらりと舞う。舞っている時にちらっと横から見える顔は前を睨みながら笑っているように見えて。虎の中に入っている時だけは、少年?青年?に若返っているように見える。その姿に完全に心を捉えられてしまったのです。「カッコ良すぎる…。私もこんなふうに舞えたら。」と思うと、ドキドキワクワクが止まらなくて、気づいたら「虎やってみたいです…!」と志願していました。
(「ささばみ」という演目の様子。荒々しい虎の見せ場です。)

虎は基本的なステップと囃子と連動する大体の動きがあって、あとは自由。このタイミングでこれ、という明確な譜面のようなものはありません。「こうしたらサマになる」という先輩の指示を聞きながら、そして過去の舞や他団体の舞を参考にしながら、練習を繰り返していきます。
太鼓・笛・鉦・掛け声も全て譜面はなく、みて覚えていきます。お囃子に虎が合わせて動くのではなく、虎に囃子を合わせるのも面白いところ。虎の動きを見て太鼓を叩き、太鼓の音に合わせて笛を吹く。まるでジャズセッションのような相互作用で演舞をしていくんです。

仲町虎舞の練習で一番大好きなところは、練習がいつも賑やかなところ。先輩たちがとにかく元気で、明るいのです。「良いぞ良いぞ!」といつも盛り上げてくれるので、舞うのがどんどん楽しくなっていきます。そして、数回の練習でも舞台にあげて、とにかく場数を踏ませてくれる。この姿勢も、郷土芸能では珍しいかもしれません。
私もまだまだ舞手としては初心者中の初心者なのですが、「楽しいのが一番だぁ!」と先輩たちはいつも言ってくれる。
震災を経て、集落が解散したことで、しがらみもないのか、もはやしがらみでは続かないから、楽しさに振り切れているのかな。先輩たちが芸能に向き合い続ける姿は、勉強になることばかりです。
(練習の様子。お囃子は虎の動きを見ながら演奏します。)

震災前、小正月の15日に、各部落をまわって悪魔祓いをするのが恒例だったそうなのですが、なんと来年は震災後初めて、小正月の悪魔祓いを復活させることになりました。先日、その段取りをする打ち合わせがあったのですが、集落が解散し、青年会も婦人会もない場所で地域行事を行うというのはもちろん難しさもあり。でも、「昔はこうやってたよなぁ」という話を聞くごとに、先輩たちの記憶と共に、震災前の気仙町の賑やかな風景が立ち現れていくような感じが嬉しくて、大切な行事の復活に関わらせてもらえることが誇らしくて。今から、祭りの前のような高揚感を感じています。

悪魔祓いは来年1月11日に、今泉コミュニティセンターを起点に復活します!演舞はどなたでも鑑賞できるので、ぜひ遊びに来てくださいね。もちろん、虎舞を見学してみたい、やってみたいという方もいつでも大歓迎。郷土芸能のカッコ良さに触れると、岩手・陸前高田の面白さがグッと増すはずです!

 

【プロフィール】
木津谷亜美(きつや あみ)
1999年生まれ/青森県西津軽出身/母国語は津軽弁/2022年夏季インターンを経て、2023年4月に移住。高田暮舎では、おうちの未来相談窓口を担当/古着が好きで、空き家から出てきた服を着ることにハマっています。

執筆者プロフィール

植田聡美

1996年生まれ 岩手県育ち 高田暮舎 移住コンシェルジュ 市内を徒歩で散策中