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今回お話を聞いたのは種坂奈保子さん。
この「移住者に聞く」に関わって、これまで陸前高田市に住んでいる方々にお会いしながら、「ほんまるの家を運営している種坂さんというすごい人がいる」というお話を耳にする機会が多くありました。「どんな方なのだろう」と、実際にインタビューに臨むためのリサーチをしてみると、確かに種坂さんがメディアに取り上げられる機会は多く、表立った活動をたくさんされているように感じられます。
インタビュー当日。そうしたお話を本人に伝えると
「立派な人みたいに扱われることがたくさんあるんですが、そんなにたくさん働いてないし、私自身は普通だなって思うんですけどね。全然立派なことないんです」
と種坂さん。種坂さんの活動をそばで見て感じている地元の人達と実際に動いている種坂さんとでは、少し受けている感覚に違いがあるようです。
今回はその「すごい」と感じられながら、自身は「普通」と感じている違いはどんなところにあるのだろうと考えながら、「種坂さんがどんなことを大切にして活動されているのか」お話を伺いました。
このまちに住むひとりひとりが主役
「住み始めたばかりの最初の1,2年はとにかく『復興のお手伝いをする』という気持ちが強くありました。まちのために頑張っている地元の人達の力になりたい。震災を受けて辛い思いをした人たちが少しでも前を向けるようなお手伝いをしたい、と思っていました。それから気持ちが変化したのは『これから長い間、陸前高田市に住むぞ』と決意してからのこと。地元の方たちのサポートばかりをするのではなくて、この先もずっと住みたいと思い続けられるようなまちにするために、自分が主体的にまちづくりに関わらないといけないなと思うようになりました。その感覚を今も変わらず持ち続けています」
種坂さんが陸前高田市に移住したのは2011年11月。NPO法人ETICが主催する震災復興リーダー支援プロジェクトの一環である「右腕プログラム」に参加して、陸前高田市の「陸前高田未来商店街」の事務局に就任したことがきっかけでした。その後、大船渡の観光物産協会やいわて復興応援隊として「陸前高田地域振興株式会社」での勤務を経て、2016年5月、現職である「陸前高田まちづくり協働センター」へ着任。陸前高田市のまちづくりへ最前線に関わりながら、現在は2017年10月にオープンした交流施設「ほんまるの家」の管理・運営を務めています。
中心市街地のまちなか広場内にあるほんまるの家。調理設備を備えたレンタルスペースです。
「もう陸前高田市で暮らし始めて、7年ちょっとが経ちます。これだけ長く住んでいるといろんなことが見えてくるんですよ。最初は自分の周りしか見えていなかったのが、色んな人に会うたびに、こういう人はこういう考えをしているんだなというのがわかってきて。特に中高生とかはそう。よく会って話をしていくと、この子達は高校卒業すると陸前高田市を離れてしまうんだなっていうのが伝わってきた。その時に、この子達がこのまちを出た後に、戻ってきたいって思えるかなって疑問に感じてしまったんですよね。都会のほうがおもしろい人に出会えたり、楽しいことが多い。陸前高田市でも制度とか商業的な売上だけでなくて、もうちょっと文化的な部分。仕事とか日々の生活以外のことでなんか幸せを感じる。なんかわくわくするような部分を充実できたらいいなと感じました」
ほんまるの家を拠点にイベントを自ら企画したり、他の方がイベントを開催するときの会場としたり。またそれらの活動にデザイナーとして関わりを持ったり。「なんか楽しい、なんかワクワクする」状況を種坂さんだけでなく、まちの人たちが主体的に動いて、つくっていく環境を整えています。
「高田に住みながら、何かやってみようと行動を起こそうとする人をいかに増やすかが大切だと思っています。そのために、大人数のイベントではなくて、10人20人くらいの人たちが今日はいい1日だったねっていうイベントを増やしたい。ひとりひとりが大事になる機会をつくりたいんですよね。イベントの中でひとりひとりが影響力を持って、役割を持つ。みんながこのまちの主役であることを伝えたいです」
ほんまるの家が位置する陸前高田市の中心市街地、高田町は震災後、海抜約10-12メートルかさ上げされてできた新しいまち。地域の人たちにとってこの場所が自分たちのまちだと思ってもらえるように、ひとりひとりのまちに対する満足度を上げる取り組みを種坂さんは実践しています。
これまでほんまるの家では、ワークショップや映画の上映会など様々なイベントを実施。高田暮舎が企画している移住定住相談会「高田暮らしカフェ」もほんまるの家をお借りして、開催してきました。
飽きない暮らしをしたい、楽しく暮らしていたい
これまでお話を聞いていると、種坂さんは「自分が主体的にまちづくりに携わろう」とした思いを実現しながら、今度はその思いを地元の人達へ波及しようとしていることが伝わってきます。
その姿勢は種坂さんが「陸前高田の人」としての立場をしっかりと持っているように感じられます。移住してきた土地でありながら、陸前高田市へのこれだけの想いはどんなところからきているのでしょう。
「長い時間、ここのまちづくりに私が関わってしまったからでしょうね。ずーっと何年も地元の商店街の人達と話してきているので、まちへの想いが強い人達とずっと過ごしているからそうせざるを得なくなってしまったんだと思います。みんな、私なんかを必要としてくれるんですよね。全然すごいことをしてないのにみんながありがたがってくれるんですよ。会議中は難しい話になるとみんな「種坂さん?」ってこっち向いて助けを求めたりして(笑)頼られるってありがたいなって思うし、そうしてなんでも聞いてもらえるのはいい関係性ができているからこそなのかもなと思っています」
種坂さんがこれまで発揮してきた「普通」だと感じている出来事が陸前高田市の人たちにとっては十分に「すごい」こと。地域外からの人の意見や考え方が、地元の人にとって新しい価値観になる。「移住」に関わって話されることの多いそうした事象が、種坂さんの周りでポジティブに発揮されているのかもしれません。
現在、種坂さんは2019年6月にまちづくり会社の立ち上げを目指して活動中。中心市街地でのチャレンジショップの運営など、新たな活動を始める予定です。
インタビューの最後に「これからしていきたいことはありますか」とお聞きすると「その質問苦手なんですよね」と種坂さん。それでも続けてお話してくれました。
「しいて言うならその先がわからない暮らしをしていたいです。目標とかがないんですよね。常におもしろくなーれと思いながら過ごしているので、なんか想像できたらつまんないなって。先を見通すことは少し苦手なんです。だからいつも一生懸命やろうと心がけています。あきない暮らしをしたい。楽しく暮らしていたいです」
text : 宮本拓海(COKAGESTUDIO)