みんなの優しさが、一番ここにいたいと思う理由

2020.04.14

コンテンツ

陸前高田市の国際交流員として働くサラ・チュウさん。「語学指導等を行う外国青年招致事業」(以下、JETプログラム)を活用して、2019年8月、国際交流員に就任しました。

JETプログラムは、海外から訪れる人を全国の地方公共団体で受け入れて、外国語教育や国際交流のため活動する機会を提供する事業。参加者は、外国語指導助手(ALT)として学校で外国語を教えたり、国際交流員(CIR)として行政組織に所属し、通訳や国際交流事業などに取り組みます。

陸前高田市では2016年からJETプログラムを使って国際交流員が活動しており、サラさんは3代目の国際交流員です。

取材当日、「海に行こう」と誘ってくれたので、今回の取材場所は広田半島にある小さな漁港で。お気に入りの場所の一つだといいます。

サラさんは、この町でどんな暮らしをしているのでしょうか。まずは、陸前高田市に来ることになった経緯からお聞きしました。

シンガポールから香港、日本へ

サラさんは香港生まれ、シンガポール育ち。幼い頃から広東語と英語、中国語の3つの言語に触れて育ったことから、語学を学ぶことが好きだったそうです。アニメがきっかけで日本へ興味を持ったサラさんは『話していることをもっと理解したい』と、日本語の勉強を始めました。

「日本のアニメが好きで、日本語にも興味を持って。シンガポールの専門学校で日本語の初級レッスンを受けたあと、香港の大学で日本語学を専攻しました。毎日日本語で授業を受けて、すごく大変だったけど楽しくて。より日本語を学べる環境をと考え、上智大学との交換留学に参加することにしました。

日本に住み始めたのは2018年です。語学の勉強やボランティア活動をしながら5ヶ月くらい滞在して。『卒業後も日本に住みたい』と思うようになりました」

日本で働くことを目指して就職活動を始めたサラさんは、「自分が知っている言語を活かして仕事がしたい」という思いから、翻訳や通訳として活躍できる国際交流員に応募。配属先として決まった陸前高田市に2019年8月、移住しました。

 

留学中に東北地方を訪れたことはあったものの、地方で生活することはサラさんにとって初めての経験。シンガポールや香港では都市部に暮らしていたことから、最初は生活環境の違いに戸惑いを感じていたそう。

「小さい頃から都会で生活していて、自分はずっと都会に住むんだろうなって思っていました。人は多いけど、好きな洋服がすぐに買えるような便利な場所が良くて、『何もないところにいたくない』みたいな。だから最初は『なんで田舎なの』と思っていた(笑)でも、住んでみたら身近な生活の中で好きだなと感じるところもあって、考え方が変わってきて。

自然が多いところで暮らすのもいいなと思うようになりました。平穏な生活だなと感じるし、景色も綺麗だよね。海が好きだから、漁師さんのような生活も素敵だなと思って。今は、もう少しここに住みたいと思う」

「実際に来てみなければ、分からないよね」とサラさん。続けて、陸前高田に住む人たちとの関わりについてもお話ししてくれました。

「私は人と一緒に何かをするのが好きで、ひとりでどこかへ行くのはあまり楽しくなくて。陸前高田へ来てから最初の一ヶ月は、外国から来た友達が一人か二人いたけれど、知り合ったばかりで会う機会も少なかったから、家に引きこもってテレビばかり見ていて。寂しいな、つまらないなと思っていました」

「本当は色々な人と盛り上がったり、旅行に行ったりしたい」と、最初は孤独感を抱いていたというサラさん。しかし、国際交流員の前任だったタンさんの存在をきっかけに、陸前高田で暮らす人との出会いが広がっていきます。

「あるプロジェクトの発表会に行ったときに、隣に座った人から『タンの後任ですか』と声をかけられて。『タンも私の家によく来ていたから、サラも遊びにおいで』と言ってもらいました。

家に行くといろんな人が集まっていて、移住者も地元の人もいた。そのつながりで一気に知り合いが増えて、友達ができて。それが本当に嬉しかった。

外国人だから、地域のコミュニティに溶け込むのは難しいのかなと思っていたんです。言語の壁とか文化の違いがあるし、私はある程度日本語が分かるけれど、そうでない人にとってはもっと大変かもしれない。でも、ここの人はすごく優しくて、外国人の私を普通に受け入れてくれて。最近一番好きな時間は、みんなが集まる飲み会(笑)すごく感謝しているんです。みんなの優しさが、一番ここにいたいと思う理由かな」

 


左端がサラさん。移住して出会った友人たちと誘い合って食事をすることが楽しみだそう。

自分にしかできないような観光案内がしたい

国際交流員として任されている業務に加え、「Visit Takata」という訪日外国人に向けた観光案内のFacebookページの運営を引き継いで、陸前高田市の情報発信もはじめました。

「もっと外国人に優しいSNSがあったらいいなと思って、Facebookページを使って観光情報の発信を始めました。日本語では十分な説明があるけれど、英訳がある場所は少なくて、観光やインターンで来る外国人にとっては不便だなと感じていて。自分の力で何ができるかと考えたら、『これだ!』と。今は観光で陸前高田に来る人たちは日本人がほとんどだけど、外国人にとっても、もっと来やすい場所にしたいです」

外へ出かけることが好きなサラさん。「自分にしかできないような案内をしたい」と、外出先で撮った写真と一緒に、陸前高田市のお店や観光情報を英訳して載せています。

「自分の好きなものじゃなければ、広報ができないと思うから。もし私があまり綺麗じゃないと思ったら、他の人には伝わらないと思う。だから自分の好きな景色とか、いいなと思った風景をPRしたいです」


「普段の生活の中でも、写真を撮るようにしています」。市内向けの広報紙に連載をしている「サラのThankyou! SINGAPORE」では、サラさんが陸前高田で見て、体験して、感じたことを通して、シンガポールと日本文化の違いなどを伝えている。

 

日本語への興味をきっかけにして、香港、東京、そして陸前高田へ。慣れ親しんだ環境から飛び出して「これだ!」という思いに忠実に向かっていくサラさん。

これから挑戦していきたいことを聞くと、「もっと東北の地を周って、観光に関することを仕事にしていきたい」と意気込みます。

「陸前高田には色々な人が移住していて、そのつながりでまた移住者が増えて…みんなが住みたいと思うということは、きっとここに何か魅力があるんじゃないかなって。私ももともと日本に住みたいと思って陸前高田に来て、全然後悔してない。だから、もし迷っている人がいたら『勇気を持って、引っ越してみて!住んでみないとわからないので』と伝えたいんです」

今回のインタビューで「一緒に行こう」とお気に入りの場所へ連れて行ってくれたように、サラさんの「いいな」と感じる陸前高田の魅力が、サラさんを通してたくさんの人へ伝わっていくのだと思います。

「Visit Takata」は訪日外国人に向けた観光案内サイトです。
ホームページ:http://visit-takata.jp
Facebook:http://facebook.com/visit.takata
Instagram:http://instagram.com/visit_takata

text:山﨑風雅

移住者プロフィール

サラ チュウさん

香港生まれシンガポール育ち。専門学校までをシンガポールで生活し、香港の大学へ進学、日本語と英語文学を専攻。東京へ留学後、JETプログラムを活用し2019年8月国際交流員に着任。陸前高田市役所観光交流課に務める。

インタビュー場所について

インタビューをした場所:越田浜

広田町大陽地区内にある小さな浜。「陸前高田に住む友達に連れてきてもらって、とても気に入って。また行きたいと思っていたから来れて嬉しい」とサラさん。海が好きなサラさんにとって、陸前高田の色々な場所を知ることは日々の楽しみのひとつになっています。

ピックアップ記事

移住者に聞く
仕事を探す
を見つける