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漁業や農業に加え、林業も盛んな陸前高田市では、地域おこし協力隊の制度を活用して「自伐型林業」を推進しています。自伐型林業とは、自家伐採と小規模機械を用いた、低コストで環境保全型の林業のこと。陸前高田市が震災以降、地域資源を活用し、新たな雇用を生み出すために力を入れてきた分野です。
今回、インタビューをした平山朋花さんは地域おこし協力隊員として「林業の担い手」を務めるひとり。同じく地域おこし協力隊員である夫の平山直(なお)さんと共に東京から陸前高田市に移住しました。
「話をするのはあまり得意ではないんです」とインタビューに緊張した様子を見せる朋花さんに、まずは陸前高田市に移住するまでの話からお聞きしました。
「陸前高田市に移住することになったのは、自伐型林業のフォーラムに参加した夫から『陸前高田市で林業に携わりたい』と話されたことがきっかけです。私は当時、鉄を溶接して家具や什器などを製作する会社を立ち上げた友人と一緒に家具をつくる仕事を始めたばかりだったこともあって、一度話を見送っていました。それからしばらく経った頃、また夫から『陸前高田市で林業に携わりたい気持ちがまだある』と言われて、本気度が伝わってきたというか。そこから徐々に私も陸前高田市に行くことを考えるようになり、『林業に携わる仕事なら、私が好きな木工と繋げて、自分のできることが広がっていくかもしれない』と思い始めて、一緒に応募することを決めました」
直さんの「陸前高田市で林業に携わりたい」という熱意をきっかけに、自らも陸前高田市の林業に携わることの意義を見出して、地域おこし協力隊に応募することを決意した朋花さん。採用試験の日まで、陸前高田市に訪れたことがなかったものの「夫はフォーラムで出会った市の職員の方がきっかけで。私はその夫がきっかけとなって。そうした人の繋がりの連鎖で陸前高田と出会うことができました」と話します。
採用試験を終え、陸前高田市に移住したのは2017年5月。
地域おこし協力隊として活動を始めた1年目は、NPO法人自伐型林業推進協議会の講師や市内で林業に携わる方から指導を受けて、自伐型林業に取り組んでいた朋花さん。
2018年5月からは、着任時から志願していた木工に関わる仕事をするため、建具の製造販売を行っている「小泉木工所」に勤めています。小泉木工所は、釘などを使わずに木と木を組み合わせて、様々な模様を表現する伝統技術「組子細工」の技術を持つ職人、中村多一さんが営んでいる木工所です。
「小泉木工所では、従業員の方たちと一緒に、障子やふすまなどの建具づくりを行っています。もともとは『組子細工を教わりたい』と考えていたのですが、中村さんから『組子はあくまで建具の一部だから、そもそも建具の作り方を覚えないといけない』と教えていただいて、今は建具を勉強しているところです」
建具の作り方や組子細工の技術を学びながら、朋花さんが目指しているのは「陸前高田市で木工をして、暮らしていくこと」です。
「まだ修行中の身ですが、今でも『こんなものをつくってほしい』と声をかけてくれる方たちがいるんです。陸前高田では自然と仕事関係以外の人との出会いが多いこともあって、その人たちが必要としている家具や木工品を聞くことで、自分のやりたいことの幅が広がっている感覚があります。今はなかなか仕事で精一杯で、声をかけてくれる方たちの分まで手をつけられていないですが、のちのちは建具の技術を、家具や木工品づくりに活かすことができたらいいなと思っています」
地域おこし協力隊の任期は最長3年。朋花さんは、残りの任期を見据えながら、やりたいことをして暮らしていくことと、収入を得て生活していくことのバランスを考えて「今はすごく迷っている時期です」と話します。
「『自分のやりたいことをやって、暮らしていく』のが夢です。ただ、そればっかりだと収入が不安定になるんじゃないかとか、不安なこともあって。地域おこし協力隊の任期中に『これから自分がどんな生き方、働き方ができそうか』を試していきたいなと思っています」
これまでお話を聞いていると、自分のやりたいことを明確に持って、積極的に取り組む朋花さんの強い意思が感じられてきます。しかし、それは一か八かの勢いで挑戦しているのではなく、どこか落ち着きを持ちながら、着実に目標に向かっているように見えます。
「一番は、楽しく仕事をしていたいんです。私は、木工が好きなので、木工に関わりながら楽しく暮らしていたい。これまでは『これでいいのかな』と日々悩みながら、ちょっとずつ進んで来たという感じですが、これからはどんどんいきたいと思います」
(Text : 宮本拓海(COKAGESTUDIO))