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今回お話をお聞きしたのは、清水ワラーラットさん。陸前高田市内では「ビーちゃん」の愛称で親しまれています。
清水さんの出身はタイ。タイから千葉県に移り、その後陸前高田市に移住。陸前高田市高田町でタイ古式マッサージ店「ビーハッピー」を営んでいます。
お店に伺って、インタビューを行おうとすると「そんなにお話できることなんて、なにもないよ」と清水さん。
とても恥ずかしそうに笑いながら、まずは陸前高田市に移住するまでの経緯からお話し始めてくれました。
私はここで何ができるだろうか
清水さんはタイ・パタヤで生まれ育ち、大学を卒業後、タイ国内の企業で事務職に従事。清水さんがマッサージと関わりを持ち始めたのは、仕事を始めてからのことです。
「マッサージが好きで通っていたんです。やってもらうと気持ちいいし、リラックスできる。だからみんなにも受けてほしくて。みんなのために習おうと、勉強を始めました」
自分の好きなマッサージをみんなにも受けてもらいたい。その気持ちから勉強を始め、資格を取得した清水さんは2006年、千葉県で親戚が営んでいたマッサージ店に勤務。そこから日本での生活が始まりました。
「日本でマッサージ店を経営している親戚から声をかけられて、千葉県に引っ越しをしました。そこで旦那と出会って。その後で、旦那の出身である陸前高田市に移住しました」
陸前高田市出身の旦那さんと結婚したことを機に、2013年に移住をした清水さん。
現在営んでいるタイ古式マッサージ店「ビーハッピー」を移住してすぐオープンしました。
「仕事を探そうとしても、日本語がわからないから、『ここでなにかできるかな』って悩んでいました。そこで、前もやっていたし、免許もあるから自分でお店を始めようと決めました」
人と人のつながりに助けられた
インタビューが始まったばかりの頃から、楽しげにお話を続けてくれていた清水さん。
しかし、陸前高田市に引っ越してきたばかりの話になると、少し表情が曇り始めます。
「お店をオープンしたばかりの頃はとてもつらい時期だった。最初は泣いていたよ。ああどうするかなって。陸前高田のことはなにもわからない。だからお客さんもいない。タイに帰ろうかなって、もうやだなと思っていました」
清水さんにとって陸前高田市は未知の場所。住んでいるまちのことはもちろん、近くに住んでいる人も知らない人たちばかり。清水さんは強い孤独感を抱いていました。
しかし、そんな状態を救ったのが、マッサージ店にきてくれたお客さんたちとの出会いです。
「マッサージに来てくれたお客さんがすごく優しい方で。マッサージをしながら、相談に乗ってくれて、本当に優しかったの。知らない人なのに、たくさんお話して、さっき会ったばかりとは思えないくらい仲良くなれる。そのお客さんがまた違うお客さんを紹介してくれたり。本当に助けてもらいました」
今では、陸前高田市内から多くの人が通う「ビーハッピー」。清水さんの愛称である「ビー」と「みんなで幸せになろう」という意味が店名に込められています。
清水さんは、マッサージ店の経営を行う他に、出身地であるタイに向けた活動も行っています。
「私はタイに住んでいた時から、ボランティア活動を行っていました。お父さんお母さんがいない子どもたちや生活するのが大変な子どもたちに、料理を持っていったり、足りない生活用品を渡したり。陸前高田市に引っ越してきた今も同じような活動を続けています」
タイに住んでいる孤児や障がいを持った子どもに向けて、生活支援活動を行っている清水さん。寄付するための資金や物資は、清水さんがタイ料理を提供するイベントを行うことで調達。高田町にある「りくカフェ」を会場に、2018年はイベントを3回実施しました。
「イベントの売上金すべてをタイへ寄付しています。自分ひとりで子どもたちを支援するには、全然力が足りない。そんな時に陸前高田市の人に『タイ料理が食べたい』と声をかけられて、それならタイ料理屋さんを開いて、寄付をお願いしようと考えました。みなさんのおかげで、タイの子どもたちを支援することができています」
清水さんがタイ料理を提供するイベントを開催した際に使用した募金箱。これまで支援した訪問先の子どもたちが写真に収められています
移住するのには、きっとそこに住んでいる人や場所とのつながりがきっかけになることが多いはず。しかし清水さんのように、何も知らない状態で移り住んでいても、その人達を受け入れ、一緒に楽しく過ごそうとする温かい空気が陸前高田市にはあります。
はじめは憂鬱ながら、陸前高田市の人たちとの出会いによって、その温かい空気に包まれるように、充実した暮らしぶりを行う清水さん。最後に、これから陸前高田市に移住しようと検討している方へ、清水さんからメッセージをお話していただきました。
「陸前高田市は住みやすい。食べ物も多いし、どれもおいしいんだよ。めっちゃおいしい。景色もいいんです。山もあるし、海もあるし。だから、人もいい。地元の人達からたくさん陸前高田市のいいところを教えてもらって、そのおかげで楽しい生活ができています。きっとここの人たちがいなかったら私はここにいられなかったと思う。だから本当に陸前高田市の人たちのおかげで楽しくいられるんです」
(TEXT:宮本拓海(COKAGESTUDIO))