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2022年11月14日、陸前高田市チャレンジショップにオープンしたお店、「囲炉裏鉄板 静流sizzle」。約5坪の小さな店内には、カウンター5席と向かい合わせのオープンキッチンに鉄板と囲炉裏が設置されています。和洋ジャンルを問わない素材の良さを生かした料理が味わえる、プライベート感のある隠れ家的なお店として、オープンから注目を集めています。
こちらのお店を営むのは、2022年6月に神奈川県から移住された、飯山直起(いいやまなおき)さんと耀(ひかり)さんご夫妻です。「お店をもつ」というお二人の共通の夢を、ここ陸前高田で叶えました。
移住を考えはじめてから、引っ越しをするまで約半年という早さで、行動に移した飯山さんご夫妻の人生の道のりを探っていきたいと思います。
それぞれの飲食業への想い
移住する前は、神奈川県で鉄板焼き屋のお店を経営していた直起さん。大学時代に鉄板焼きと出会ってから、この道一筋でやってきました。直起さんは、鉄板焼きのどんなところに魅力を感じたのでしょう?
「最初に感じた魅力は、ライブ感ですね。一般的な飲食店の厨房やキッチンは、客席から見えないように完全に区切られています。ただ、鉄板焼きに関しては、料理はもちろんですが、お客様と触れ合いながら調理ができるという点に一番魅力を感じました」
60席の客席があり、ロフト席などもある大きなお店を経営していた直起さん。そのどの席からも鉄板焼きが見え、ライブ感を楽しめるお店だったと言います。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、お店をたたむ決断をしました。規模を縮小して再出発したいという想いもあってのタイミングだったと直起さんは話します。
「お店をたたんでから、『移住してみたいね』と2人で話すようになりました。そこから、移住について真剣に考えるようになって、移住先の候補地として最初に頭に浮かんだのが、陸前高田でした」
大学時代にアカペラサークルに所属していた直起さんは、仲間と共に年に2回、7~10日間ほど陸前高田に滞在して、市内各地でアカペラの活動をしていました。その活動をするにあたり、一番お世話になったのが、吉田歯科医院の吉田和子さんです。和子さんを中心に、地元の人たちがスケジュールを組み、会場の手配や送迎など、活動をサポートしてくれたそうです。そんな地域の人たちの優しさに触れていた直起さんは、耀さんへ陸前高田の魅力を伝えます。
「2022年1月に移住について考えるようになって、直起さんから『素敵なところがあるよ』と紹介されたのが陸前高田でした。3月末には初めて家族で下見に行ってみたのですが、本当に素敵なところだなと思いました。私から、『ここに住みたい!』と言いました」
耀さんは、大手飲料メーカー、割烹料理屋では3年勤務。直起さんが経営するお店へ、お客として足を運んでいたことが出会いのきっかけでした。当時から、耀さんは直起さんへ「自分のお店をもつことが夢」と話していたそうです。その後、直起さんと結婚。出産を機に、飲食業から離れます。
「飲食店は、生活になくても困らない娯楽のようなものだと思っています。でも、飲食店に行って『この料理美味しかったな』『友達と会えてすごく楽しい時間だった』と、そんな幸せを感じられるのが、飲食店の魅力だと思っています。特別な時間を、よりいいものにできるようなお手伝いができればという想いがありました」
2022年6月には移住をした飯山さんご夫妻。特に、耀さんは知り合いもいない、縁もゆかりもない地域への移住は、不安などはなかったのでしょうか?
「移住する前は、子どももいるので、『仕事がうまくいかなかったらどうしよう』『溶け込めなかったらどうしよう』という不安はありました。でも、下見に来たときに、直起さんが昔からお世話になっている人たちに会ってみたら、みんな素敵な人ばかりだったので、不安は解消されました。親戚などもいない土地へ移住するうえで、心強い!と感じたのは間違いないですね」
好きな場所で夢を叶える
住む家や店舗は、市役所へ聞きに行くなどして、情報を収集。現在の店舗を決めたのは移住後でした。それまでは、隣の大船渡市や気仙沼市も視野に入れていたそうですが、陸前高田でお店をオープンする決め手はありましたか?
直起さん:「陸前高田が好きで移住してきたという気持ちがあったので、ここで頑張ってみよう!と思いました。周りからは『大丈夫?』と言われたりもしましたが、やりたいという気持ちの方が大きかったです。こちらの地域だと、一から箱をつくって、そこで商売をするのが基本だと思います。でもテナントがあったので、大きく始めるのではなく、席は少なく、スモールスタートという形で話しあって決めました」
6月に移住してから、5ヶ月後の11月14日に「囲炉裏鉄板 静流sizzle」はオープン。
カウンター5席と向かい合わせのオープンキッチンには、お客様の目の前で調理を行う鉄板が設置されています。お二人が大切にする、お客様との触れ合い、そして料理とも向き合うというスタイルが、店内のつくりに反映されています。
鉄板の上で繰り広げられる調理は、まさにライブ感あり。音、香り、作り上げられていく様、舌触りと味の五感で料理を楽しめるお店です。店名は、その美味しさを五感に訴える「シズル感」から考案されました。
※シズル感…食材や料理を扱った主に広告写真などの表現における、食欲や購買意欲を刺戟するような瑞々しい感覚のこと
直起さん:「お店のオープン当時は、和子さんが、毎日のように裏口から様子を見に来ていました。心配だったんだと思います。和子さんもランチやディナーコースを食べに来たりもしていて。オープンから3か月くらい経ったころに、『しっかり形になっていて、安心したわ』と言葉をいただいた時に、ちょっとほっとしました」
耀さん:「小さい頃からの夢が叶って、思い描いていたようなお店になっているなと感じます。対面スタイルで、目の前で料理を作りながら接客をしていくなかで、幸せを感じてもらえる時間をこれからも提供していきたいと思っています」
直起さんは、移住してお店をオープンするまでの間、陸前高田に決めて良かったと日々感じていたそうです。そして、これからもまだまだ、そう感じられる瞬間はあるだろうと確信もしているようです。
「なんとかなる!」そう思わせてくれたのは、地域の人たちの優しさのおかげ
移住をして、改めて感じる陸前高田の魅力は何でしょうか?
直起さん:「やっぱり人だと思います!そうとも言い切れないよと言われることもあるんですが(笑)」
耀さん:「海産物やご飯の美味しさの魅力もあるんですが、私も最終的には、地域の人の魅力が一番だと思いますね」
耀さんは、移住してからも地域の人の温かさを感じるそうです。子どもと一緒に買い物や公園、病院など、どこへ行っても優しい声がけがある。住宅でのご近所さんとの関わりもあり、みんなに可愛がられている環境のおかげで、子育ての大変さはあまり感じていないそうです。環境の面でも、気持ちの面でも安心を感じられる場所でもあります。
これからの目標について伺いました。
直起さん:「商売をやらせてもらっているからには、大きくしていかないと意味がないと思っています。飲食店とかに限らず、地域にとっての楽しい!や魅力を増やしていきたいですね」
最後に、移住を考えている人へメッセージをいただきました。
直起さん:「仕事を決めて移住したわけではなく、商売をやるのも、何も決まっていない状態でした。それでもなんとかなって、こうやってお店ができています。
なんとかなったのは、陸前高田のいろんな人が、親切や温かさで助けてくれたから。
なんとかなるよ。助けてくれる人が周りにいっぱいいるよ。と、私の経験談で言えます。
本当にそう思うので、心から『陸前高田は良いところだよ!!』と伝えたいですね」
Text:一般社団法人トナリノ 吉田ルミ子