未来を見据えて“今を丁寧に暮らす”

2025.12.04

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未来を見据えて“今を丁寧に暮らす”

2024年5月3日。夜行バスに揺られて陸前高田市へ移住した小出愛菜(こいで・あいな)さん。

埼玉県所沢市で育った小出さんは、現在、陸前高田市の電力会社「陸前高田しみんエネルギー」で活躍されています。

移住から1年半ほどが経った今、移住前からの大きな変化についてお話を伺いました。

移住の決め手は「ここで働きたい」という強い思い

中学生の頃から「地球温暖化を止める仕事に就きたい」と考えていたという小出さん。

大学では地球や環境に関する「森林生態学」を学び、気候変動や環境問題に対して「なんとかしなければ」という思いから、さまざまな活動を始めました。環境や気候変動に関わる啓発活動を行いながら、並行して環境系のNPOでも勤務。そのNPOでは、幼稚園や保育園に太陽光発電を寄贈し、環境教育を行う取り組みをしていたそうです。

「気候変動に関連する啓蒙活動を何年か続けてきましたが、気候変動の進むスピードがあまりにも速くて焦っていました。知らない人に知ってもらう活動に力を注ぐよりも、気候変動そのものを解決する動きに加わりたいと思ったときに、再生可能エネルギーに関わることを考えました。」

再生可能エネルギーは気候変動の解決策の一つだと語る小出さん。

数ある電力会社の中でも、東京の企業が地方で大規模に展開するのではなく、「地域の人とともに、地域に利益が循環する形」で再生可能エネルギーを広げる形に関わりたかったそうです。

環境問題への関心と、移住のきっかけをくれた“父”の存在

「父が社会問題の話を家庭でするような環境で育ちました。『食べ残しはダメ』と言われている背景には、ご飯を食べられずに亡くなる同世代の子もいるんだよ、というように優しくふわっとした形で色々と教えてもらったんですね。その中のひとつに地球温暖化も含まれていて、『地球が暑くなって生活できなくなったら意味がない』と思ったら、自然と“地球温暖化を止めたい”と思っちゃったんですよね。」


中学生の頃から気候変動に強い関心を持っていた小出さんの背景には、お父さんの存在がありました。

最初はペットボトルを買わない、レジ袋を断るといった小さな行動から。

大学生になると、自ら発信する啓発活動を始めます。人に伝える難しさを感じながらも、活動を続けてきました。

「父が発酵パーク・カモシーやワタミオーガニックランドの計画、陸前高田しみんエネルギーの立ち上げに関わっており、その関係で陸前高田に来る機会がありました。私も父の仕事を手伝うような形で訪れたのが最初の接点です。2015年頃には家族旅行で一度訪れ、玉乃湯に泊まって黒崎仙峡の展望台から見た景色を今でも覚えています。」

移住の決断は、私にとって“大したこと”ではないんです

陸前高田への移住に不安はほとんどなかったと語る小出さん。

「自分にとって移住は大きな決断ではなかった」と言います。

「このまちで働くことが当然の選択として腑に落ちていたからだと思います。ただ、一人暮らしは初めてでしたし、細かい生活の変化には多少の不安もありました。でも、出会いの中で気が合う人がいたのは心強かったです。
それに、陸前高田は震災後に多様な移住者が集まった土地。先輩世代・同世代の移住者がいることも安心材料でした。」

「陸前高田は過ごしやすくて、自分にすごく合っているなと思います。時間の流れがゆっくりで、山も海もある。挑戦している人も多く、刺激的です。地権者さんや地域の方々と話すと、『この人に聞けばわかるよ』という関係性があって、人のつながりが土地に根付いていることに驚きました。地方では普通かもしれませんが、私にはとても新鮮でした。」

“一人何役”も必要な環境だからこそ面白い

小出さんは「陸前高田しみんエネルギー」の再生可能エネルギー事業ユニットに所属し、小水力発電の計画や省エネルギー関連のシステム業務などを担当しています。

また、再生可能エネルギーで発電した電気を販売するための手続きも行うなど、幅広く業務を担っています。

「2024年に陸前高田が脱炭素先行地域に採択されたこともあり、それに関連する業務を担当しています。あと、市民の皆さんに知ってもらうための広報活動もスタートしていますね。地域電力会社“あるある”かもしれませんが、“一人何役”が必要な環境で、だからこそ面白いです。」

高田まちなか会の「茜市」や、市の産業まつりなどで、認知拡大に精力的に取り組む小出さんの姿が見られます。

「陸前高田しみんエネルギーの業務は、自分の考えを曲げずに取り組めることにやりがいを感じます」と話す小出さんの姿勢が印象的でした。

「今」を大切に生きるということ

陸前高田に来て1年半。

この間に起きた自分自身の変化について尋ねると、「生活を大事にできるようになったこと」が大きいと話してくれました。


「これまでは、自分の啓発活動をどう広げるかばかり考えていて、自分の生活をないがしろにしていたところがありました。」

「今もライフワーク的に気候変動関連の企画は続けています。12月には、東京でイベントを企画しているので、休みの日に東京へ戻ることもありますね。
一方で、休日には色あせたお気に入りのズボンを染め直したり、北上市に映画を見に行ったり、博物館や資料館を巡ったり。今は広田町で暮らしているんですが、地区の草刈りに参加して近隣の方と話す機会もあります。」


深刻な気候変動の未来を想像すると「今の日常生活はなくなっているかもしれない」と不安を感じることもあったといいます。しかし、陸前高田に来てからは時間を作れるようになり、「今を大事にしたい」と考えられるようになりました。


「未来のことを考えるのは大切だけど、少しだけ自分のことを考えたり、“今どうしたいか”を大事にできたらと思うようになりました。未来は今の連続でもあります。今の自分を大切にできるようになったのは大きな変化です。」


「移住=永住」と考えると重く感じてモヤモヤすることもあったそうです。ですが、その考え方に引っ張られずに、「今はここにいたい。この仕事を続けたい。」という現在の気持ちを大切にしながら、未来を現在進行形で見つめています。

Text:清水健太

移住者プロフィール

陸前高田しみんエネルギー(株)/小出 愛菜

埼玉県所沢市出身。
大学生の時から気候変動に関連した活動に取り組む。
2024年5月、陸前高田に引っ越し現在、陸前高田しみんエネルギー株式会社で働く。
趣味は、読書、ポッドキャストを聴くこと、新しい場所に行くことなど。

インタビュー場所について

2021年4月29日に開業。有機・循環型社会、命をテーマにしたオーガニックテーマパーク。
有機農業や有機食品づくり、「再生可能エネルギーを利用した循環型6次産業モデル=ワタミモデル」を具現化する施設で様々な体験を通じて、楽しみながら学べる施設を目指しています。

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