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今回、お話をお聞きしたのは大道芸人のジロー今村さん。
これまでインタビューのために、陸前高田市に滞在していると「ジローさんにはインタビューはしたんですか?きっとおもしろいと思います」とたくさんの方からジローさんの名前を聞く機会がありました。陸前高田市に住んでいる方々の中では、「陸前高田市に住んでいるおもしろい人」といえば「ジローさん」、という認識が広がっているようです。
なのでジローさんは、インタビューが実現する前から「どんな方なのだろう」ととても気になっていた方のひとり。念願の初対面を果たして、早速、陸前高田市に移住するまでの経緯について、力強く話し始めてくれました。
ジローさんが、陸前高田市に移住するまで
「もともと東京に住んでいて、大道芸人として全国回って歩いていたんです。初めて三陸・気仙地区に訪れたのは、3年前。滋賀県の浄土宗のお坊さんが被災地支援としてお米を配って歩くのに、一緒に行かないかと声をかけられたのがきっかけでした。陸前高田市のほかにも、大船渡市や気仙沼市など行ったことがないところに行くって聞いていたので、初めての場所で大道芸をするっていうのは自分を試すという意味でいいな、と。それに、大道芸人をしているのはある意味で旅好きなところもあるから、単純に行ったことがないところにいけるのが楽しみで、ついていこうと決めましたね」
ジローさんが初めて三陸・気仙地区に訪れてパフォーマンスをして回ったのは、2016年11月。当時東京に住んでいたジローさんは、滋賀県に住んでいる大道芸人仲間から声をかけられ、滋賀県のお坊さんと一緒に東日本大震災の被災地を訪れて周ることになりました。それから、陸前高田市に移住することが決まるまでは「あっという間」のこと。被災地支援の活動をする中で出会った岩手県大船渡市に住んでいる方との出会いが、ジローさんが移住を決意することを加速させました。
「大船渡であったおばちゃんから『東京に住んでいる、株式会社地域活性化総合研究所の職員の方をあなたに紹介したい』って言われて。東京に戻った後に、その人と会うことになったんです。すると、その方から『沿岸地域を盛り上げるために、芸人やアーティストが滞在できるようなシェアハウスをつくりたいと考えている』と話を聞いて『いいですね』なんて言ってたら、それから数カ月後にシェアハウスにできそうな家が見つかって。それで2017年の10月に、実際に家族を連れて見に行ってみたら、みんな気に入ってね。それで移住することを決めたんです。すっごい早い展開でしたね」
できるかどうかわからないからこそ、それが挑戦
2017年12月にジローさんは家族と共に、陸前高田市に移住。陸前高田市に移住してから、ジローさんが最初に始めたのは、自分の名前を知ってもらうこと。岩手県、特に沿岸地域は「大道芸」を知らない人がほとんど。陸前高田市広田町から岩手県と青森県の県境である岩手県洋野町までをランニングする「三陸リアス沿岸縦走220kmチャレンジ」などを通して、大道芸について周知しながら、自ら各自治体に連絡をして、出演する機会がないかを探していました。
「いつも思うんですけど、絶対できると思ったら、それは挑戦じゃないじゃないですか。『できるかどうかわからない』、『これやばいかもしれない』と思うからチャレンジだなって俺は思うんです。俺はチャレンジをしに、陸前高田市に来てる。実際、大道芸が広まっていないから『競合、ライバルがいないからいいじゃないか』とかそういうことはなくて。競合相手がいないからこそ、予算もつかないし、出演できる場所がない。この岩手県の沿岸地域で大道芸が仕事になる環境を全部自分でつくっていかなきゃいけないんで、本当に大変ですよ」
それだけ大変なことでも、ジローさんが強く持っているのは「岩手県・沿岸地域で大道芸人として活動する」という想い。地域への熱い気持ちが、ジローさんを突き動かしています。
「僕が陸前高田市を拠点として、全国を回りながら活動をしていれば『陸前高田市でもおもしろいことがあるぞ!』って発信できるんじゃないかと思うんです。色んな人がただ集まってくるだけじゃなくて、陸前高田に住んで、おもしろいことを全国に発信しようとしている人や動きがあることを伝えたいです」
楽しさというパワーを伝える、魂の肉体表現者
さらに、ジローさんが特別に抱いているのが、子どもたちへの想い。「次の世代に伝えなきゃいけないことがある」と話します。
「子どもたちに、楽しい大人を見せてあげたいんです。僕みたいなおもしろいおじさんがいるっていうことを伝えたい(笑)。そうすることで、俺のパワーを子どもたちに与えたいんですよね。その子どもたちが勉強をするにしても、スポーツをするにしても、俺でもこんだけのパワーを持っているんだから、お前らもがんばれよって応援したいんです」
ジローさんの職業は「魂の肉体表現者」。聞き慣れない言葉なだけに「大道芸人」と説明することもあるそうですが、出演をするイベントのチラシのほとんどには肩書に「魂の肉体表現者」と記されています。「結局魂で伝えてるのか、肉体で伝えてるのか、自分でもよくわかってないんですけどね」とジローさん。それでもインタビューでお話を聞いていると、ジローさんの大切にしている想い「魂」を、ジローさんのパフォーマンス「肉体表現」によって、伝えていることがわかります。
「なんのために勉強するのか。なんのために力をつくすのか。その根本になるエネルギーを、俺のパフォーマンスによって与えたいんです。どんなことでも『自分にもできるかもしれない』とやる気にさせるのが俺の仕事で。きっとパフォーマンスは、初めて見る人にとってはマジックみたいに見えるかもしれない。それでも『頑張ればなんでもできるんだ』とか『楽しければなんでもできるのかもしれない』って思わせたいんですよね。やっぱりそれだけ『楽しそう』っていうのは重要なパワーですから。そういったことをね、言葉じゃ説教じみてくるから、身体表現でぶつけていくんです」
周りの人を熱く、おもしろく、やる気にさせるジローさん魂。今日もまたジローさんは、ここ陸前高田市で、魂の肉体表現を続けています。
(text:宮本拓海(COKAGE STUDIO))